セルビア第2の都市ノヴィ・サドで、欧州文化首都『Novi Sad 2022』"Cooks in Residence"に参加しました
はじめに
「箱の中に、あなたのプロフィールを見つけた時のことを今でも覚えている」。"Cooks in Residence"のオーガナイザーである、ヴラディッツァの言葉に息をのんだのは、セルビア共和国第2の都市、ノヴィ・サドに到着して数日後のことでした。「えっ!あの書類が?!」何を書いたのか。記憶をたぐっているうち、耳はついていけても、口が追いつかない。欧州人たちの早口の英語に取り残され、そのままになってしまいました。彼がどんなシチュエーションでそれを見つけ、あの内容のどこがそんなに印象的だったのか。質問すればよかったな。こんどヴラディッツァに、会う機会があったら聞いてみよう。
今回参加した"Cooks in Residence"は、アーティスト・イン・レジデンス(Artist-in-residence)の料理人版。ノヴィ・サドに招聘を受けた料理人が、滞在しながらメニューに開発を行いました。現地の人びととの交流で印象的だったのは、日本食の力。来日経験のあるセルビア人の多くは、DASHI(出汁)を香りの記憶として語りました。もちろん、SUSHI(寿司)は世界の言葉。ノヴィ・サドでも何店か見かけました。あたためていたレシピ案はありましたが、「SUSHI」と、わたしたちの「寿司」は微妙に違う。現地調達した食材で応用編のメニューを1週間で完成させるは難しい、と、断念しました。そんななか、地元のシェフ、ドゥシャンは、TEMPRA(天ぷら)が自店のメニューにあると話し、ローマ字書きのTERIYAKI(照り焼き)と、和食材名に手描きのイラストを添えたレシピで、瞬時に意志の疎通が可能でした。
帰国後、PCの中で見つけた公募用ダンボールの撮影日付は2018年2月でした。「欧州文化首都(European Capital of Culture)」について知ったのは、その数ヶ月前のこと。ヨーロッパで1983年から続く文化事業で、EUによって指定された複数の都市が、1年にわたり、欧州各国から集まった芸術家や運営者とともに集中的に文化イベントを開催します。1993年からは日本委員会も設立され、日本からも参加するようになりました。 2021年はセルビアのノヴィ・サド市が開催地になるので、アーティスト登録をしてみませんか?と、知人からご紹介を受けたときの正直な気持ちは「うーん、でも、わたし料理人だし。それって芸術や芸能の世界のお話では?」。たしかに料理人の登録は、それまでになかったそう。でも、せっかくのお声がけだし、「食」も文化だ。何かのご縁になれば、と、英文プロフィールを作成し、説明会に参加しました。まさか、4年後のノヴィ・サドで、何を書いたか覚えていない自分に、うろたえることになるとは、夢にも思わずに。 その年の秋は、東京で開催されたプレゼン&交流会にも参加しました。2019年には、ケータリングの機会もいただき、来日した関係者との知己を得ることができました。 2020年から世界に広まったパンデミックの影響で、2021年に予定されていたセルビアが翌年に延期されたと風の便りに聞いたのは、いつのことだったか。「東京で会ったみなさんや、日本から参加予定の友人知人はどうしているだろう」。ぼんやり考えていたのは、不要不急の外出自粛が呼びかけられるなか、真っ白なスケジュールに居直り、セルビアワインについて独習していた頃だったかもしれません。 「Novi Sad 2022」のヴラディッツァから招聘の打診メールが届いたのは、2021年の春、オリンピックの開催前でした。食に関するプログラムを企画しているので、参加の意思をお知らせください。という期待を上回る内容は、はじめフィッシング詐欺を警戒してしまったほど。実施される2022年8月に渡航可能であれば、という条件つきでイエスの返事をしたものの、期待しすぎないようにしておこう。ただでさえ先の見えないパンデミックにウクライナ情勢も重なり、行くべきか、行かざるべきか迷い続けた1年あまりでした。 このまま様子を見続けていても埒が明かない。肚をくくり、2022年8月8日の夜にベオグラード空港に降り立ちました。迎えの車で一路ノヴィ・サドへ。 翌日、ルクセンブルグから料理家アン・ファーバーが到着しました。私たちには2つのミッションがありました。1つ目は、伝統的なヴォイヴォディナ料理を、わたしたちの国の視点から見つめ直し、セルビアやほかの国の消費者にとって魅力的なメニューを創ることです。そのうちの1つはベジタリアンメニューでなければなりません。2つ目のミッションは、地元のシェフとともにそれらのメニューを調理し、一般向けの発表会で試食してもらうことでした。 スケジュールはタイト。到着したその日から食べ歩きを続けました。現地の素材で出汁をとり、セルビアの土鍋でご飯を炊けば美味しいものができるのでは?と、日本から案をあたためて来ましたが、打合せを重ねるなか、海外の人が抱く”SUSHI”のイメージと、わたしたちの寿司の違いを痛感。調理指導をしている余裕もなかった。大量調理の手間やコストも考慮し、断念。頭を切り替え、4日めに、何とか二つのメニューをひねり出しました。地元のシェフ、ドゥシャンにレシピを手渡し、食材の調達と準備を依頼。果たしてお客様は来てくれるだろうか。セルビア在住の友人知人に連絡をしまくり、祈るような気持ちで、14日の発表会当日を迎えました。 発表会は、14日にノヴィ・サド市内のエギセグ文化センター(Kulturna stanica Eđšeg)で開催されました。北緯45度のノヴィ・サドでは夏の陽は長く、夜の8時でもまだ明るい。 準備に手間取り、開始時間に少し遅れて到着すると、すでにたくさんのお客様が待っていました。予想していたよりも、かなり多い! 既に会場入りして準備を進めていたケータリング会社のキャプテンと打ち合わせ。レシピを見せながら、料理の配置はこの順番で、盛り付けは手分けしましょう。 当日の調理にあたってくれた地元のシェフ、ドゥシャンに展示用の盛り合わせを説明。日本から持参したこの重箱に詰めて披露したいのだ。 アンと、スピーチの段取りを打合せ。お料理を前に、お客様をあまりお待たせしないよう、手短にいこうね。 いざ! アンの料理は、ルクセンブルグのマスタード・ワイン ソースを添えたサルマ(ロールキャベツ)と、ケシの実ソースとシナモンで香りづけしたプラムを添えたお団子のデザート。 日本語で話しかけてくださるお客様が何人もいて、親日国のありがたさを実感。SNSや個別でお知り合いに呼び掛けてくれた友人知人に感謝!100名を超えるお客様が来場されたようです。 1週間共に過ごしたアン・ファーバーと記念撮影。ルクセンブルクの料理とテレビ界のスターは、気さくで才能あふれる素敵な女性でした。 『Novi Sad2022』での8月のプログラムをまとめた動画です。はじめのほうに、「Cooks in Residence 」発表会の様子も紹介されています。ガーデンパーティのテーブルに、重箱入りのバルカン弁当が映るので探してみてください。 わたしと同じ、食いしん坊のあなたに。今回の滞在で食べ歩いたノヴィ・サドのお店を紹介します。口コミで訪れたレストランは、地元の友人知人の行きつけや、お勧めばかり。どこもはずれなしの美味しさでした。セルビアのレストランの多くはテラス席を持ち、屋外での食事がほとんどです。ただし、Wifiは室内のみが圏内の場合があるので、利用の際は店員さんに確認してみてください。 (各店へのアクセスは、それぞれの紹介に貼り付けた地図から。レストランとマーケットを網羅した↑の地図は、こちらのリンク(※)からご覧いただけます。) 2022年現在、気になるのが感染予防状況、利用客の各人がそれぞれウェットティッシュやアルコールを携帯し、消毒や食事前の手洗いを徹底していました。すべての洗面所には手洗い方法が掲示され、ハンドソープは常に補充されていました。公衆衛生の世界的な底上げを感じます。 伝統料理の老舗。屋内は典型的なカファナの内装。バンドの生演奏もあり、居心地バツグン。近くにあったら通いたいお店。 ヴォイヴォディナ地域の伝統料理と、ベジタリアンメニューなど、モダンなテイストの両方を楽しめるお店。 地元で人気の、ドナウ川近くの名店。他店でメニューにオンリストしていなかったカラジョルジェヴァ・シュニッツラをやっと注文できた。 ドナウ河に浮かぶ船を改造したレストラン。ペトロヴァラディン要塞を眺めながら食事ができる。川魚のグリルとVršacの白ワインが絶品。 伝統的な"Quite light healthy meal"(←セルビア人の自虐的表現)が楽しめる。日本人は注文時にボリュームを要確認。 いくつか支店を持つ、牛肉100%のサラエボスタイルのチェヴァピのお店。カイマックはオプションでは添えることができる。 旧市街の中央にある、サライェヴォ風チェヴァプの別店舗。プリェスカヴィツァやソーセージとあわせた盛り合わせを注文。Slemski Karlovcの白ワインも旨し。 毎日ミーティングを繰り返し、活動拠点だったカフェ。写真は「ブルース・リー」という名前の、オーナーお勧めのピタパンサンド。薄切り肉を東洋風の味付けで軽くソテーしてあり、日本のライスバーガーを思い出した。 ベジタリアンの友人のお勧めのお店は、フトシュカ・マーケットの入り口近くにあるテイクアウト店。歩道にあるテラス席で、ファラフェルと豆腐バーガー。 ピザを囲んでの誕生日パーティにお呼ばれ。セルビアでもイタリアンは人気。 いろいろな人にお勧めされたケーキショップの名店。お腹がいっぱいだったのでバヤデーラを頼んだら、ひとり分が4つだった! もちろんスーパーマーケットもありますが、生鮮食料品を買うならばまず、ファーマーズマーケットへ。生産者が収穫した商品を対面で販売し、昼過ぎには売切れ御免になるので、午前中がお勧めです。 滞在先のホテルからほど近く、毎日のように通った市場。食品から日用品まで、小規模な店舗が立ち並ぶ。 現地のNovi Sad2022スタッフいちおしの市場。セルビア語で魚市場という名前。野菜や肉がほとんどで、魚屋さんは見かけないのになぜ?とヴラディッツァに尋ねたところ、昔ドナウ川の漁が盛んだったころの呼び名がそのまま変わらずにいるのだそう。 3つの中で、最も規模の大きな市場。Anneのお気に入り。日用品を含む多彩な品ぞろえに夢中になり、迷子になってしまった。 最後までお付き合いいただきありがとうございます。以上が、"Cooks in Residence"の報告です。東京で知り合った友人たちとの再会など、ほかにも、書ききれなかったエピソードもたくさんありますが、それはまた別の機会に。 発表会では、終了間際までお客様に料理を提供をしていて、残念ながらアンの料理を撮影できませんでした。彼女の料理は、アンの公式Instagram↓でご覧いただけます。 日本とセルビアの架け橋"Hanami"には、告知でもお世話になりました。 セルビアは多彩な顔を持つ、驚きに満ちた国。みなさんも、現地に足を運んで、それぞれのセルビアの魅力を見つけてみませんか。 みなさまにお会いできる機会を楽しみにしています。 欧州文化首都とは
Cooks in Residence
・Novi Sadからのメール
・Novi Sad到着
・Cooks in Residence 発表会
わたしの料理は、日本から持参した重箱で「バルカン弁当」に仕立てました。中には、照り焼きソースと目玉焼きを添えた日本風チェヴァピ(Japanski Cevapi)と、ショプスカサラータに着想を得た天ぷらの2品を詰めました。Novi Sad 食べ歩きマップ
・Restaurant Sokace
・Restaurant Cafe Veliki
・Plava Fralja
・Zeppelin cafe-brod restoran
・Restaurant Cika Pero
・Sarajevski Ćevap kod Dakca
・Sarajevski ćevap kod Dakca CENTAR
・PUBeraj
・Rekalibracija - veganski restoran
・Garden Pizza & Salad Bar
・Vremeplov
Novi Sad 市場マップ
・Futoška pijaca
・Riblja pijaca
・Limanska pijaca
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