2018年11月 醤油の学校・後編

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和食の基本はさ・し・す・せ・そ。

砂糖・塩・酢・醤油・味噌。

セルビアという異国の料理を生業としていますが、セルビア料理の研究は言うまでもないこと。自国の食文化への理解があってこそ、他国の文化の発信ができるというものです。

 

発酵食は両国に共通のもの。

ソムリエ試験で嫌というほど座学は詰め込みましたが、日本で無許可の酒造は

ご法度のため自家発酵をはじめたのは最近のこと。天然酵母パンや手前味噌を仕込んだら、市販品との風味の違いに驚きました。

無理だと思い込んでいた手前醤油も可能と知り、きちんと学ぼうと4月に「醤油の学校」を受講しました。

 

講師は陸前高田の老舗、八木澤商店社長 河野通洋さん。

完成した醤油の容器を愛おしそうに抱える笑顔で、醤油に対する深い愛情が伝わってきますよね。

 

 2013年に一ノ関の新工場を見学した際に、醤油の香りは300種類の集合体であること、丸大豆醤油と廉価版の醤油との違い、などなど知っているようで知らなかったお話を伺い醤油に興味を持つきっかけとなりました。以来、八木澤商店の商品が我が家の定番です。

 

 

serbian-night.hatenablog.com

 

 

嫌というほど勉強したはずの醸造用語も、先日かなり忘れていることに気づき焦ったため、以下、復習でワインの醸造用語をカッコ書き()しています。

 

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4月の講座で種麹と塩水をあわせ、果たしてこれが醤油になるのか半信半疑で持ち帰った「もろみ」の赤ちゃんを

 

 

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自宅で醸す(maceration)こと7か月。

冷暗所に保管しときどき蓋をあけて揺すりました。

これ、酸素を入れたり糖分(醤油の場合は塩分かな)や酵母、温度を均一化させるルモンタージュ(remontage)やピジャージュ(pigeage)と同じことかな。

醸造の基本は共通してる。

 

はじめの頃、チーズのような香りがしてきても、乳酸発酵(malolactic fermentation)がうまくいっている証拠なので心配しなくとも大丈夫なのだそうだ。うん、このあたりセルビアのサワーキャベツと一緒。

 

漬け物樽を並べて隣で発酵させていたキャベツに麹菌が移ったのかな、途中、セルビアンナイトで煮込み中のサルマに醤油のような香りがするというアクシデントもありました(笑)

とはいえ、影響を与えながらも、それぞれちゃんと発酵したようです。

 

4月に同じ講座に参加したそれぞれが「もろみ」を持ち寄って比べてみると

 

どちらの写真も、うちのコが右ですが、面構えは赤っぽかったり黒っぽかったり、白い粒が見えていたりいなかったり。

香りの強弱やニュアンスにも差があって面白い。

 

そして、それぞれの「もろみ」の外見や香りで発酵過程の様子を言い当てる河野社長。

すごいなー。

 

八木澤商店では他の醸造元と五社共同の製品もあるそうですが、ブレンド(assamblage)により味と香りに複雑みが出るそうです。

 

 

「もろみ」をコーヒーフィルターにセットして圧搾(pressurage)、いやこの場合は濾過(filtage)かな、するとぽたぽたと雫が垂れてきます。

 

あ、ちゃんと赤い。

これが生醤油です。

シャンパーニュ醸造方法でいうテート・ド・キュヴェ(tête de cuvée)のような一番搾り

自然の重力だけで抽出したこの状態が最上級ということです。

 

1時間程かけてしぼれた生醤油はこのくらい。

他の参加者の量より少なく「あれ?発酵が足りなかった?」と心配でしたが、実際はその反対。

きちんと発酵しているほうが大豆が溶けてドロドロとしているため、液体と固体に分かれにくいのだそうです。

ほっ。。。

 

市販されている生醤油はマクロのフィルターで微生物まで取り除いているそうですが、今回は普通のコーヒーセットでの作業のため、微生物は生きています。

冷蔵庫で保存して2週間程度で食べきるのがベスト。

 

 

フィルターの先を折って重しを載せ、さらに搾ることもできます。

シャンパーニュの製法でいうとプルミエール・タイユ(Première taille)かな。

これ以上負荷をかけると雑味が出て美味しくなくなるそうです。

 

フィルターに残った「もろみ」も冷凍保存が効き、用途いろいろ。

冷や奴はもちろん、納豆や漬物、鍋のタレ、もちろんそのまま炊きたてご飯に載せてもOK。

バターで炒めたチャーハンの味付けにしても絶品だったそうです。 

 

 

2週間以上保存の場合は瓶ごと湯せんして火入れすれば、市販品と同じように使えるそうですが、

 

 

醤油がいちばんの芳香を放つのは、最初に80℃以上に加熱した瞬間

 

河野社長の実演に「うわぁ~、お煎餅屋さんの香りだ」「浅草の仲見世の匂い」と、一同盛り上がりました。

 

 

その場で味見したお刺身はもちろんのこと

 

 

翌日のスーパーの特売のお寿司さえ、いつもと違う。

「ひぇーっ、なんじゃこりゃ」と醤油の偉大さを身をもって知りましたが

 

本当の凄さは、きっとこんなもんじゃないのです。

もっといろいろ試してみよう。

 

左が手前醤油、右が「もろみ」と煎り胡麻などをあわせたタレ。

同じ日に同じ種麹を使って仕込んで、持ち帰り醸す場所により生まれる味はそれぞれ。

そして結局みんな「我がコ」がいちばん好みだと落ち着くらしい。

 

 

 

河野社長はじめ、八木澤商店、アンドレシピ

関係者のみなさま、ありがとうございました。

しばらくいろいろ楽しめそうです。

 

www.yagisawa-s.co.jp

 

 

来年も醸さねば。 

 

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